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異世界便り

〜日々のあれやこれ、サイト更新情報、雑記、ゲーム攻略など。〜
愛の行方 2019.10.09
怒りの矛先と想像力 2019.09.27
叩き潰してきたものたちの記録 2019.09.26
戻そうとして伸び悩む話 2019.09.25
件の彼の話 2019.09.24
手放したものを取り戻した時 2019.09.23
音楽の再開 2019.09.22

解像度の話

その日毎に、私の心に去来する「感情という名の種族の客人」は変わる。昨晩から今に掛けては労り、であるが、昨日の朝は強烈な怒りと殺意だった。一昨日の最初は戸惑いと悲しみ、その次は情熱と思いやりだった。その前は誰だっただろう、希求と焦燥、そして渇望だったろうか。忙しいことこの上ない。応対をするのは非常に困難である。
おまけにそれらすべてが特定の一人へ向かっているのだから始末に負えない。

ふと、自宅のフローリングとトイレが非常に汚れていることに気付いて、掃除用具を調達するべく、買い物に出た。

かつて幼かった私が毎日歩いて通った小学校への道を歩くのは帰郷して三度目くらいだったような気がする。住宅街の細い道を抜けて、小綺麗な新しいアパートと今にも崩れそうな木造の辛気臭いアパートが混在しているのを不思議な気持ちで見る。小さな森のようになっている深い用水路の闇を左に眺めながら水の殆ど流れていないことを察した。やがて線路の脇の歩道に出る。二十年前は誰かが管理していたから、歩道と線路の間にある土の領域には色とりどりの花が植えられていたのだけれど、今はもうただ雑草が生い茂るだけの殺風景なスペースになってしまっていた。エノコログサが、ただ、涼しい風に揺れていた。小学校の近くの、十歳そこらの時に景色の中に存在していたマンションはまだ健在だった。でも、だいぶん老朽化しているように感じる。もうまもなく撤去されるであろうと思われるものが多い。
建築物も植物も変わる。けれど、線路と道は変わっていなかった。

ドラッグストアへたどり着くまでに小学校がある。まごうことなきわが母校。
その横を通りがかったら、何と、今日が運動会だったらしい。子供たちの声の裏に聞こえてくる音楽は、松任谷由実の春。なんでだよ。季節外れにも程がある。どちらかというと今は秋と呼んで然るべき時だ。しかし晴れて良かったと思った。ちょうど昼時だったので、校舎の周りで家族と一緒に食事を取る子供たちの姿が見えた。今時にしては珍しく、その校門は開放されていた。
どうやら今も、紅白対抗戦をやっているようだった。私が在校していた時……最初の2年かそこらは赤白青の三色対抗戦だったのだけれど、それを知っている人はいるのだろうか。或いは子供たちの家族であるのなら周知のとおり、なのかもしれない。子供の数が減ったせいである。私の知っている恩師はもう残っていないだろう……高校二年生で友人と訪れた折に、知る人はたったひとりしか残っていなかった。
ウサギとニワトリがいた小屋は跡形もなかった。それは前から知っていたけれど。
地元紙に幾度か掲載されたビオトープも今はない。
でも、敷地の形は、何も変わっていなかった。

一気に涼しくなったからだろうか、あんなに濃かった夏の緑の匂いは薄れてきている。
薄曇りの中に僅かにちらつく空の青さが季節の移り変わりを感じさせた。夏は終わったように思える。天気予報では来週からまた暑くなるらしいけれど、どうだか。

気が付いたらドラッグストアで弁当箱とまな板と箸を買っていた。やっぱり私は生きるつもりらしい。
気が付いたらスーパーに寄っていた。食材を買った。荷物の重たさが嬉しい。
たとえ拙くとも、この手で何かを作ろうとしている、その事実がここにあった。歌、物語、演奏、料理、なんでも。

外に出るのはいいことだ。
故郷の景色への複雑な味をした愛情が、抱いているそれら……かわるがわる私の心に訪れる客人を全て包み込んで赦していく。十三年前の酷い失態の際も、秋の空の美しさに抱いた気持ちに、私は救われたような気がした。
終わった夏を思う。世界の解像度がどんどん増していく。十八歳で故郷を離れてからずっと、どこか浮ついて寄る辺なかった私の中の何かが、あるべき場所へ填まったような気がする。まるで正しい錠前と鍵のように。

それもこれも彼がそこにいたからだ。
彼の言葉が私の世界を変えた。今も変えていく。
私の心は、何周も何周もくるくるくるくる回って、その底から何か大事な……感謝に似たものを吐き出そうとしている。

京都にいた時も、東京にいた時も、ひとりでぼんやりとしながら、このまま穏やかに心が死ぬのをじっと見守っていくんだろうか、と何度も思ったものだった。
けれど、今、私はこの十年で一切合切失っていたものを、徐々に取り戻し始めている。

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